「天から降ってきた宝石箱」美しいヴィ―ス教会【前編】

ドイツ
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懐かしい金木犀の香り

みなさん、こんにちは!アオテアロアです!
朝晩の冷え込みが秋きっぽくなり、毎日の季節の移り変わりを肌で感じています。

散歩をしていたら、金木犀の甘くてさわやかな香りが漂ってきました。小学生の頃、通学路によく咲いていた金木犀、友達と「良い香りだね」と鼻を引っ付けて花の香りをかいでいたことを思い出しました。香りだけで眠っていた子供の頃の記憶がよみがえるなんて驚きです。

そういえば大人になってから金木犀を見ないなと思っていたけど、散歩道には結構咲いていて、「今まで季節や花の香りを感じることもできない生活をしていたんだなぁ…」とコロナ前の忙しい生活を思い出しました。

いよいよアメリカ大統領選の投票が始まりました。バイデン氏かトランプ氏か、どちらが選ばれるのでしょうか?バイデン氏が選ばれたとしても、トランプ大統領は簡単に引き下がりそうもなく、まだまだ一波乱ありそうです。

ヨーロッパではまたコロナ感染が急増して次々とロックダウンし、大好きなトルコで地震が起こり、フランスやオーストリアで銃撃テロ…世界がどこへ向かっているのか、1年後はどうなっているのか?全く予想できないです。

最近、本業とは全く縁のないエクセルの勉強を頑張っているいのですが、エクセルはやればやるほど奥が深くとっても面白いです。まるで宝探しをしているようで、隠された機能を発見するたびに歓声を上げてしまいます(笑)この魔法のようなエクセルを本当に使いこなせる人って、どれくらいいるのかなってちょっと気になります。

最近は海外から離れた生活をしているので、どんどん記憶が薄れていきます…

そんな中、目に留まった写真が祭壇に祀られた「鎖につながれた鞭打たれるキリスト像」です。なんとなく目が合ったような?気がしたので、今回はこのキリスト像とヴィ―ス教会についてお話したいと思います。

ヨーロッパにはたくさんの教会があるけれど…

ヨーロッパの観光と切り離せないもののひとつに教会があります。
教会はお祈りを捧げる場所なので、キリスト教の国であれば、どんなに小さい村でも必ず教会があります。

今回、紹介するヴィ―ス教会も、ヨーロッパに星の数ほどある教会のひとつですが、とても美しい教会として有名です。あまりの美しさに、私も初めて見た時は「うわぁ~」と思わず声をあげてしまいました!

ヴィ―ス教会は、ドイツ南部にあるシュタインガーデンという町外れの牧草地に建てられた小さな教会で、ドイツで人気の観光地「ノイシュバンシュタイン城」から車で30~40分の場所にあります。一般的にはノイシュバンシュタイン城の観光と合わせて訪れることが多いです。


ノイシュバンシュタイン城※ノイシュバンシュタイン城

ヴィ―ス=牧草地という意味で、その名の通り牛がのんびりと草を食む牧草地の中に建てられていて、シンプルな外観はのどかな風景に溶け込んでいます。

正式名称は「ヴィ―スにある鞭打たれるキリストの巡礼教会」という長い名前で、この教会の成り立ちがそのまま名前になりました。教会の祭壇にはその名の通り「鞭打たれるキリスト像」が祀られています。また「巡礼教会」と付いているので、今でも年間100万人以上の人たち(巡礼も観光も含めて)が訪れます。

※ヴィ―ス教会

「巡礼」とは信仰の証でもあり、また聖地を旅することで「神秘のパワー」にあやかったり救いを求めたりするもので、昔から自分たちの身にも「奇跡が起こりますように」と、巡礼地を旅してまわる習慣がありました。

キリスト教の三大巡礼地と言えば、イスラエルのエルサレム、イタリアにあるバチカン、スペインのサンチャゴ・デ・コンポステーラですが、ヴィ―ス教会のような小さな巡礼地も含めると、ヨーロッパには数えきれない巡礼地があります。

巡礼地には必ず、聖遺物(聖者の持ち物や身に付けていた物、遺骸の一部など)や、奇跡を起こした物などがあり、それらを祀るための「美しい聖遺物箱」「立派な教会」が建てられました。またキリストの母である聖母マリアが出現した場所も巡礼地とされ、多くの人たちが訪れます。

フランスのルルドの泉や、ポルトガルのファティマ、過去の記事で紹介したパリにある「奇跡のメダル教会」もそのひとつです

ではなぜ、この何もない牧草地に「ヴィ―スにある鞭打たれるキリストの巡礼教会」が建てられたのでしょうか?時代は約300年前まで遡ります…

偶然発見されたキリスト像

ことの発端は1730年、聖金曜日(イエス・キリストの受難と死を記念する日)の聖体行列のためにシュタインガーデンの修道士が「鎖に縛られた鞭打たれるキリストの木像」を作りました。しかし、その木像の姿があまりにもリアルで痛々しく、見るに堪えないという理由から、1734年に修道院付属の食堂の屋根裏部屋の奥にしまわれてしまいました…

※教会の近くにいた牛たち

それから4年後の1738年、食堂の主人の親戚で農家の主婦マリアが、埃をかぶって忘れ去られていた「鎖に縛られた鞭打たれるキリストの木像」を偶然見つけ、このように放置しているのなら…とその痛々しいキリスト像を譲り受け、毎日熱心に祈りを捧げました。

祈りを捧げ続けて数か月後…突然、奇跡が起こりました!
なんと、木像のキリスト像が涙を流したのです!!

文献には1738年6月14日(土)と翌日の日曜日にも「キリスト像から涙のしずく数滴が認められた」と残されています。

テレビやネット、車も鉄道も飛行機もない時代なのに、この話はあっという間に広まり、周辺諸国からだけでなく、ヨーロッパ中からたくさんの人たちが「涙を流すキリスト像」を拝みにやって来ました。

1740年、奇跡のキリスト像を納めるために、小さな礼拝堂が建てられました。しかし、押し寄せる巡礼者の数は増える一方…これにショックを受けたのは当時のシュタインガーデン修道院長ガスナ―でした。

※手前の小さな小屋が最初に建てられた礼拝堂

このような奇跡を起こすキリスト像をぞんざいに扱い、忘れてしまっていた事への後悔と反省から、今ある小さな礼拝堂よりも、もっと立派な素晴らしい教会をキリスト像のために建てよう!と決意しました。

そこで白羽の矢を立てられたのが、ドミニクス・ツィンマーマンでした。彼はこの依頼を受けた時60才でした。装飾細工師、大理石職人でもあり、建築家としても有名だったドミニクスは、宗教建築においては右に出るものはいないと言われるほどの腕前でした。

しかしドミニクスは高齢であることを理由に最初は断りました。それでも諦めずに何度もお願いし続ける修道院長の熱意に負け、最終的には教会の建築を引き受けることにしました。自分にとってはこれが最後の仕事になるだろうと、残されたすべての人生をかけて教会建築に取り組みました。

バロック様式とロココ様式

ヴィ―ス教会はツィンマーマン兄弟によって建てられました。5歳年上の兄、ヨハン・バプティスト・ツィンマーマンが教会の天井画を描き、弟のドミニクスは建築を担当しました。兄のヨハンは宮廷画家として活躍し、ミュンヘンにあるニンフェンブルク城にも素晴らしい作品が残されています。

ロココ様式と検索するとヴィ―ス教会が1番にでてきますが、後期バロック様式にロココ様式が絶妙に加わったドイツ独特の様式で建てられているので「ドイツ・ロココ様式」とも呼ばれています。

建築様式というのは、その時代の流行によって変化し続けてきました。建築様式が理解できれば、建てられた年代も予想できます。

ロマネスク様式(10世紀末~)
ゴシック様式(12世紀後半~)
ルネサンス様式(15世紀~)
バロック様式(16世紀後半~)
ロココ様式(18世紀~)※建築ではなく主に室内装飾

ヴィ―ス教会に取り入れられたロココ様式が誕生する前は「バロック様式」が流行っていました。主な特徴をあげると「豪華絢爛で過剰な装飾」「ねじれや曲線、曲面」「重厚で荘厳」「複雑で入り組んだ空間」「絵画や彫刻が建築と一体化」「男性的」など、華麗で重厚感があり躍動的です。

※サンピエトロ大聖堂 バロック様式の大天蓋

また天使の彫刻や柱、空間を広く立体的に見せるだまし絵やスタッコ(化粧しっくい)もよく使われました。イタリアのバチカンにある有名な「サンピエトロ大聖堂」はバロック様式です。

※サンピエトロ大聖堂

次に誕生したロココ様式は18世紀にフランスの宮殿や邸宅の内装様式として生まれたもので、後にヨーロッパ中に広まり、いろんな国でロココ様式を取り入れた建物が建てられました。

バロック様式の反動から生まれたともいわれるロココ様式は、バロック様式から解放されるかのように、バロックとは真逆の「繊細で優美」「明るくて軽やか」「リボンや貝殻、波、ツタや花などの植物をモチーフにした美しい曲線」「可愛らしくて女性的」なデザインが特徴です。色使いとしては白や金色、ピンク、青色など、優しいパステルカラーがよく使われます。

※ヴィ―ス教会のロココ装飾

ヴィ―ス教会はバロック様式の特徴である柱や天使の彫刻、重厚で荘厳な雰囲気を残しつつも、真逆の繊細で軽やかで優雅なロココ様式を見事に取り入れた、本当に美しい教会です。

1745~1754年にかけて建てられ、ドミニクスの今まで職人として培ってきたすべての技術と情熱を注ぎこみ「人生の集大成」として見事に完成させました。

見るものを圧倒させる、言葉では表現できないような美しい教会にドミニクスも満足したのか、これを最後の仕事とし、完成後も教会から離れることができず、最終的には教会の近くに引っ越してきて、81才で亡くなるまでの残りの人生をヴィ―ス教会の側で過ごしました。

建てた本人も惚れ込むほどの素晴らしいヴィ―ス教会です。
見ずに通過するのはもったいない!

ドイツ旅行をした時に時間が許すのであれば、ぜひ立ち寄ってみて下さい!

教会が素晴らしすぎて、教会の中の絵や装飾の話を書いてたら長くなってしまったので、前編&後編にわけました。後編では、教会の美しい内部へ入って行きたいと思います(^^)

インスタグラムにも海外の写真をたくさんアップしています。
良かったらぜひ、見てください!

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「天から降ってきた宝石箱」ヴィ―ス教会【後編】はこちらから!

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コメント

  1. pocoapoco より:

    あまりの美しさと完成度の高さに建築家の先生が近くに住みたくなってしまう気持ちも
    想像できるような気がします。晩年の作品だったんですね。

    • aotearoa aotearoa より:

      そうなんです。300年前の60才って、結構な高齢だと思います…
      他のロココ教会をほとんど見たことがないですが、今回記事を書くのに色々調べたら…
      建築家がヴィ―ス教会に惚れ込んだ理由がわかった気がしました。
      本当に完成度が高い教会です!

  2. RUMI より:

    いつも綺麗な写真ですね。ロココ様式可愛いですよね

    • aotearoa aotearoa より:

      いつもコメント、ありがとうございます(^^♪
      ヴィ―ス教会も意外と写真がなくて…
      目で見た=写真に撮った、とごっちゃになっているのか?
      使っているのは古い写真ばかりですが、いつ行っても変わらず美しい教会です!